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デザイナー向けNDA入門:秘密保持契約の基礎

「クライアントからNDAにサインを求められたけど、どこに何が書いてあるか分からない」
「何を確認すべきか知りたい」
秘密保持契約書をサインする際に不安になったことはありませんか?
この記事を読めばわかること
- NDAに著作権・著作者人格権の条項が紛れ込んでいないかを必ず確認すること
- ポートフォリオ公開・競業避止・契約期間の3点は特に注意が必要である
- フリーランスが自分でNDAを用意・交渉することは問題ない
デザイナーはクライアントと仕事の話を始めると、ついデザインの話し合いばかりに目がいきます。契約書は後回しにしてはいませんか?
どこに何が書いてあるかわからないからと言って、契約書を後回しにすると、思わぬトラブルが発生しかねません。
この記事を読んで、秘密保持契約書のポイントを確認しましょう。
デザイナーがNDAで最初に確認すべきことは「著作権条項の有無」
秘密保持契約書(NDA)でまず確認すべきは、「著作権条項の有無」です。
NDAとはNon-Disclosure Agreementの略であり、秘密保持契約書のことを指します。
本来、NDAは秘密情報の管理ルールを定める契約書であり、著作権・知的財産の帰属を定める契約書ではありません。
しかし、実務上、NDAに著作権条項が紛れ込んでいるケースも多数存在します。
なぜデザイナーにとってNDAは「ただのサイン」では済まないのか
秘密保持契約書をなんとなくサインすることによるデザイン業界特有のリスクがあります。事例をもとに説明します。
フリーランスデザイナーのAさんは、クライアントであるB社から新商品のロゴデザインを依頼できないかと打診がありました。同時に、B社からは、「初回の打ち合わせ前にNDAにサインをしてほしい」とメールで依頼がありました。
Aさんは仕事を受注できるチャンスを逃したくないと思い、NDAの内容をよく確認せずサインをしてしまいました。
AさんはB社の新商品のロゴデザインを無事受注し、さらに新商品は空前の大ヒット。
Aさんは自分のデザインを誇らしく思い、ポートフォリオに載せようとしたところ、B社からNDA違反になるため載せないよう注意を受けることになりました。
このように、NDAをよく確認せずに契約した結果、自分のデザインをポートフォリオに載せられなくなる。これがデザイン業界特有のリスクです。
そもそもNDA(秘密保持契約書)とは何か?
秘密保持契約書(NDA)とは秘密情報の管理ルールを定める契約書です。
業務上知り得た秘密情報を外部に漏らさないことを約束する契約書です。簡単に言うと、デザイナー、クライアント共に「お互いの秘密情報を守ります。外部の人には口外しません。」と約束することです。
例えば、NDAが必要になる典型的な場面としては、以下のようなものがあります。
- 新規クライアントとの初回打ち合わせ前
- コンペ参加前
仕事を受注できるかどうか曖昧な場面でサインを求められることがあるのです。
サインを求められる契約書には、NDAだけでなく業務委託契約書というものもあります。
NDAと業務委託契約書の違いは以下の表のとおりです。
| 秘密保持契約書(NDA) | 業務委託契約書 |
|---|---|
| 秘密情報の管理ルールを定める契約書 | 業務の内容・報酬・著作権等知的財産の取扱を定める契約書 |
NDAとは基本的に秘密情報の管理についての契約書であるため、NDAにサインしただけでは著作権の帰属は決まらない場合が多いです。
デザイナーが必ず確認したいNDAの5つのチェックポイント
① 著作権・知的財産権の条項が紛れ込んでいないか
秘密保持契約書(NDA)に著作権・知的財産権の条項が紛れ込んでいる場合、クライアントと交渉が必要です。
NDAは秘密情報の取扱についてのルールを定めた契約書ですが、著作権・知的財産権についての条文が含まれている場合もよく見られます。
「成果物の著作権はクライアントに帰属する」「著作者人格権を行使しない」などの文言が書かれた条文がNDAに含まれていないでしょうか。
これらは、業務委託契約書に定めることが一般的ではありますが、クライアントによってはNDAに記述している場合もあります。
この場合、NDAから削除し、業務委託契約書内で交渉する必要があります。
契約書内でよく見られる条文「著作者人格権を行使しない」は、一見デザイナーの権利をすべて否定するかのように感じてしまうかもしれません。
著作権とは、実は大きく2つの権利を定義しており、著作権と著作者人格権です。著作権は財産権であり譲渡が可能です。しかし、著作者人格権は一身専属の権利であり譲渡の対象にはなりません。
「著作者人格権を行使しない」と契約書に盛り込むことで、デザイナーは修正・改変を拒否できなくなります。
デザイナーが著作者人格権を行使できる状態のままだと、クライアントは一切の修正・改変ができなくなり、実務上現実的ではありません。
こういった点も考慮しながら、クライアントとは交渉しましょう。
② 「秘密情報」の範囲が広すぎないか
まず秘密保持契約書(NDA)で指定された秘密情報の範囲を確認します。
NDAでは秘密情報の定義を行います。
どういった情報が秘密情報に当たるのかを定義しないと、何を話してはいけないのかがわからなくなるからです。
秘密情報の定義が曖昧であったり、範囲が広すぎると、公知の情報まで秘密扱いになる可能性があります。
公知の情報は除外するなどの条文が盛り込まれているかの確認をしましょう。
また、「口頭での情報も含む」という条項があるかも確認する必要があります。
秘密情報の定義のポイント
- 双方向か一方向の情報であるか
- 一切の情報が秘密情報か、一定の情報のみが秘密情報か
- 例外事由の具体例
- 例外に該当することの立証責任
③ ポートフォリオ・実績公開の可否
ポートフォリオ・実績公開ができるかの確認や許可は、NDA締結後であってもクライアントに交渉してみましょう。
クライアントの中には、自社のデザインを外注したと知られたくないためNDAを締結する場合があります。
デザイナーとしてはポートフォリオに実績を公開したいのは当然です。
そこで、NDA締結後に制作物をSNSやポートフォリオサイトに掲載できるかどうかの確認をクライアントにしてみることも一つの考え方です。
NDA締結前に、NDAに「事前に書面で許可を取る」「一定期間後に公開可とする条項を追加交渉する」などの条項を入れていると、よりスムーズに許可が下ります。
デザイナーにとっては、ポートフォリオ・実績公開は大事な営業活動です。正当な営業活動であることをクライアントに伝え、クライアントから許可を得ましょう。
④ 競業避止義務の有無と範囲
NDAの中には「同業他社との取引禁止」などの競業避止条項が含まれている場合があります。
しかし、一般的には競業避止義務は期間・地域・業務範囲が合理的な範囲に限定されるべきと言われています。
フリーランスのデザイナーの場合、「同業他社との取引禁止」とされてしまうと、仕事を得る機会が減ってしまいます。
合理的な場合は競業避止義務が含まれたNDAを締結することもあるかもしれませんが、締結前にご自身の仕事のあり方なども考えてみることをおすすめします。
⑤ 契約期間
NDAには有効期間というものがあります。
1年、3年などのように有効期間が決まっている場合が多く、「書面による合意により延長する」等のように延長のルールが定められている場合もあります。
「期間の定めなし」となっている場合、永続的に秘密情報を口外してはならないということであり注意が必要です。
一般的な秘密保持期間は、1〜3年程度と定められている場合が多いです。
不採用デザイン・制作途中案の権利はどうなる?
不採用デザイン・制作途中案いわゆるボツ案の権利について気になる方は多いでしょう。
不採用デザイン・制作途中案の権利については、秘密保持契約書(NDA)ではなく業務委託契約書で定められていることが多いです。
ボツ案をクライアントが無断で改変・流用する等のトラブルを避けるためには、秘密保持契約書だけではなく、業務委託契約書で不採用案の扱いについて盛り込みましょう。
不採用案の扱いについてデザイナーが業務委託契約書に盛り込むポイント
- 提案するデザイン案の点数(何点まで提案するか)
- そのうち採用される点数(何点採用されるか)
- 不採用案の知的財産権の帰属
- 不採用案の返還・抹消について
フリーランスが自分でNDAを作成・提示してもよいのか
フリーランスが自分でNDAを作成・提示することは法的に問題ありません。ただし、法的に有効なものとなるか内容によります。
NDAを読んでいただけるとわかりますが、法律の条文のように書かれており、思わず尻込みしてしまうと思います。
インターネットには無料のひな型やテンプレートがあるので、これを使えばいいかと思われがちです。しかしそのまま使うのはおすすめしません。自分の業務に合わせて修正・確認することが重要です。
もし、NDAや業務委託契約書の内容に不安を感じたら、ぜひ専門家である行政書士や弁護士に相談をおすすめします。
契約書をデザイナー自ら提示することは、クライアントに対してのプロとしての誠実さの表れです。
また、フリーランス保護新法(フリーランス法)が施行され、契約書を締結することはクライアントの法的な義務になりました。クライアントとは対等な関係として仕事をするため、契約書は重要なツールなのです。
NDAを受け取ったときの対応フロー
特に著作権・ポートフォリオ・競業避止の条項を確認
わからない箇所があれば、専門家に相談することを推奨
交渉は失礼ではなく、お互いに対等な立場で仕事をするために重要なステップである
秘密情報について分からなくなったら、保管しているNDAを読み返しましょう
交渉はプロとして当然の行為です。クライアントとの信頼関係を壊すものではありません。お互いに対等な関係に立って仕事を進めていきましょう。
まとめ
要点を以下の5つにまとめます。
- NDAは秘密情報の管理ルールを定める契約書であり、著作権の帰属はNDAではなく業務委託契約書で定めるものである
- NDAに著作権・著作者人格権の条項が紛れ込んでいないかを必ず確認する
- ポートフォリオ公開・競業避止・契約期間の3点は特に注意が必要である
- 不採用デザインの権利保護は業務委託契約書で対応する
- フリーランスが自分でNDAを用意・交渉することは問題ない
手元にあるNDAまたは今後受け取る可能性のある契約書を開き、著作権・ポートフォリオ・競業避止の3項目だけ確認してみてください。
「第○条(著作権)」のように条文番号の横にその条文の概要が書かれていることが多いです。まずはその条文の確認をしてください。
契約書は難しくてなんだか怖い、と思っているかもしれませんが、デザイナーとして自分を守る道具なのです。
当事務所ではオンラインで全国対応しています
契約書の内容に少しでも不安がある場合は、専門家によるチェックを検討するのが安全です。
ぜひ当事務所にご相談ください。
当事務所では以下のような契約書の作成・リーガルチェックを行っています。
- 業務委託契約書
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